奈良地方裁判所 昭和52年(ワ)127号 判決
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【説明】
本件は、国、県から補助金の交付をうけ、奈良県大和郡山市が工事施行者となつてガルフシール工法により堤塘にアスファルトパネルを貼付する改修工事後の市内ため池で遊んでいた兄弟が溺死した事故につき、両親が原告として提起した損害賠償請求訴訟である。
本判決は、市および土地改良区の責任を認容する一方、相当の過失相殺をした。
【判旨】
二1 本件ため池の所在、形状等について
本体ため池は、名阪高速道路大和郡山料金所の北東約一〇〇メートルの地点に位置する南北約一五〇メートル、東西約七〇ないし八〇メートルの矩形状のため池であり、同池の北側に北堤に添つて県道福住・横田線が東西に延びているほかは、周囲を田地に囲まれている。同池の総面積は一万二、六二三平方メートルでそのうちため池部分は七、〇〇四平方メートル、堤塘部分は五、六一九平方メートルであり、堤高(周辺部田地から堤頂までの高さ)は2.7メートル、堤長(四囲の合計)は四三六メートルで、満水時の水深は約三メートル、貯水量は約二万一、〇〇〇立方メートルに達する。同池の検証当時(昭和五二年一一月二〇日)における形状は、別紙「検証見取図第二図」記載のとおりであり、本件事故当時は同図面赤斜線部分に後記改修工事が完了しまた後記のとおり金網フェンス及び有刺鉄線の大部分が設置されていなかつたほかは旧態を止めており、その余の東堤及び南堤の改修工事は未着手であつた。
本件ため池は、約三〇〇年前に構築された灌漑用のため池であり、以来櫟枝部落(その後、櫟枝区さらに櫟枝町となつて現在に至る。)内の田地に農業用水を供給してきたもので、現在その灌漑面積は約12.4ヘクタールである。
2 本件ため池の改修工事について
本件ため池の堤塘は土手であり、昭和三〇年ころにも内法斜面の改修工事が行なわれたが、その後再び池水による内側法面の浸食とこれを原因とする漏水が著しくなつたため、地元農業従事者等から被告市に対し、再三改修の要望がなされていた。昭和四九年四月、被告市において土地改良事業の業務を司る産業労働部農務課土地改良係は、同年度(防災)事業要望照会を被告改良区又は櫟枝自治会に対して行なつたところ、同自治会長名義の改修要望書と地元農業従事者及び被告改良区の同意書が同課に提出され、同年九月には被告市の市議会において本件ため池改修を市営土地改良事業として採択する旨の議決とそのための補助金予算の議決(ただし、同年度総工費を二〇〇万円とする県の内示に従つてその一〇パーセントを交付するとするもの。)がなされ、その後同市市長から訴外県知事に対し、土地改良法九六条の二及び県単独土地改良事業補助金交付規則(昭和三一年三月二三日奈良県規則第七号)四条に基づき事業認可と補助金交付申請がなされ、右認可と補助の指令を得て同年度を第一期とする改修工事が開始されることになつた。
ところで、右工事は第一期から第七期に区分して具体的工事を行うこととされ、工法については事業主体たる被告市と地元受益者たる櫟枝農業従業者とが協議のうえ、ため池の漏水防止に重点を置いてガルフシール工法(さや土で堤塘を整形した上に1.2センチメートル厚のアスファルトパネルを貼布するもの。)を採用し、全工事終了後には、ため池周囲に金網フェンスを設置する計画を立てられたが、費用の関係から、初年度にはとりあえず漏水の著しい前掲図面赤斜線部分(同図面ないし)にガルフシールを貼ることとされ、同年一二月二五日から昭和五〇年二月二八日まで被告市が工事施行者となつて別紙検証見取図第三図記載の構造どおり工事が行なわれた。
右工事期間中は被告市が同ため池を管理するものとされ、工事の完了後、事業完了検査を経て、被告市から受益者に対し本件ため池の引渡がなされた。
ちなみに、右第一期工事の工費負担は県の補助金が四〇パーセント、被告市のそれが一〇パーセント、残りが地元改良区となつており、櫟枝町農業従事者は受益の田地反別に応じてこれを負担し、櫟枝自治会長名義で被告市に対しこれを納付した。
なお、本件ため池改修工事は、前記のとおり七期に分かれており、二期以降の工期は昭和五〇年から同五四年に亘つているが、補助金交付の関係をみると、初年度から昭和五一年度までが県単独土地改良事業として県から四〇パーセント、市から一〇パーセントの補助金交付がなされ、昭和五三年度からは団体営土地改良事業の対象となる採択基準が低下されたことにより、本件ため池改修工事も団体営土地改良事業とされ(ただし、事業主体の被告市であることに変わりはない。)、国が五〇パーセント、県が一〇パーセント、被告市が13.7パーセントの補助金交付がなされるようになつた。
3 本件事故当時の本件ため池の状況その他について
事故当時、本件ため池は地元受益者に引渡され、その後池水を貯蔵して田地の灌漑と訴外出口学の養魚の用に供されていた。同池の東堤は、前記第一期改修工事中、資材運搬路として使用され、右工事終了後もそのままの状態となつていたため、県道との段差はほとんどなく、かつ堤頂は道路のような状態になつていた。危険防止の施設としては、別紙検証見取図第二図点付近から点付近にかけて高さ一メートルほどの範囲に有刺鉄線がはられ、同図面⑥点付近には赤布に白字で「あぶない」と書かれた危険警告用の旗が、また同図面⑧点付近には訴外出口学が本件ため池で養魚を行なつており、このため盗み釣が禁止されることを表示する看板が立てられていたほか、二、三か所に危険表示の赤旗が立てられていた。
しかしながら、その他の箇所には本件ため池への出入を防止する有刺鉄線、金網の類は全くなく、前記のような状態から本件ため池堤塘へは容易に出入可能な状況にあつた。
一方、本件ため池から前記県道上を約五〇〇メートルほど隔てた東方には、戸数約七〇〇戸を擁する櫟本町西部団地が存在し、同団地内に居住する子供達は、本件ため池で魚が釣れるとの評判から同池に赴き、同所で魚釣をして遊ぶことも少くなかつた。同人らはため池の東堤及び南堤の各樋門付近でこれを行なうことが多く、前記第一期改修工事完了後はガルフシール部分から釣糸をたれることもあり、その際ガルフシールに足を滑らせてため池内へ危うく転落しかかつた体験を有する者もあつた。地元農業従事者は同ため池での魚釣を見とがめることもあつたがこれを放置した場合もあり、右のような状況は本件事故に至るまで続いていた。
4 被告改良区と本件ため池の管理について
本件ため池は、前記のとおり櫟枝町内に存する田地の灌漑用ため池であり、古くから同池の現実の管理は、受益者である同町農業従事者によつて行なわれてきた。すなわち右農業従事者二三、四戸の中から、区域(同町を更に細分した隣組程度の区域)ごとに選出された七、八名の水番が貯水、出水及び水の分配を区域ごとに行ない、池の維持・管理費用は全受益者が所有田地反別に応じて負担してきたもので、右状況は後記被告改良区の成立後も変化がなかつた。
被告改良区は、昭和二七、八年ごろ、櫟枝町、新庄町、横田町及び伊豆七条町の四町内を流れる正田川の治水事業に対し、国から補助金交付を受けることを直接の動機として右四町内の農地所有者(組合員)によつて組織され、奈第六七号をもつて奈良県知事から認可された公共団体である。その後奈良県の指導により、県又は市のひな型を参考に定款が作成され、組合員の承認を受けているが、右定款四条には改良事業として地区内のため池の維持管理及び改良事業が明定されている。被告改良区内には、本件ため池を含め八つのため池が存するが、改良区設立後もいずれのため池についても具体的維持管理は従前どおり慣行により改良区分区又は地区改良区としての前記四地区が各これを行なつており、維持管理規程の定めもなく、また改良区としての予算は、前記各地区の予算を合算したものに止まつている。
なお、本件ため池は、登記簿上、表題部に共有地とのみ記載されているだけで、その所有者は明らかではないが、被告市の定めた「溜池の所有権に関する取扱要綱」及び「同基準」によれば、このような場合創設事情、管理状況、利用慣習を考慮して所有権帰属を定めることとされており、右各基準による限りその所有権は地元受益者又は被告改良区に帰属することになる。
5 本件水死事故の状況
本件事故の当日である昭和五〇年八月二二日、本件ため池は前日の台風により増水しており、このため水番にあたつていた訴外仲川雅男は樋門をあけて二、三割方池水を放水した。その結果、ため池の水面は、事故当時、東堤樋門の上部から約六〇センチメートル下位の水平面程度となつていた(右水面を前掲検証の結果から、別紙検証見取図第三図に復元すると概ね水色線となり、ガルフシール斜面を基準にすると、同斜面のうち下三分の一程度が水面下となつていたことになる)。
被害者亡悦司及び同亡一雄は、訴外瀬戸浩二ほか一名とともに、午後から本件ため池へ遊びに行き、別紙検証見取図第二図EないしX付近で魚釣をしていたが、そのうち亡一雄がぬれたガルフシールに滑つてまずため池に転落し、次いでこれを助けようとした亡悦司が池に入つたが、結局助け切れずに亡一雄もろとも溺れ、水死するに至つた。同人らは、その後付近を通りかかつたパトロール中の警察官によつて池内を捜索されたが、右両名の遺体は水際から約二メートルの地点に沈んでおり、同図面X点付近にひき上げられた。同図面E付近には、釣竿、餌などがおかれていた。
以上の事実を認めることができ、<証拠>中右認定に反する部分は措信しがたく採用しない。
三被告市同改良区の責任の有無について
1 本件ため池の管理の帰属について
右被告らは、本件ため池の管理は専ら地元受益者によつてなされており、右被告らは一切これに関与していない旨主張するので、まずこの点につき判断する。
(一) 被告改良区
前記認定事実によれば、本件ため池の現実の管理が被告改良区設立の前後を問わず地元受益者によつてなされていること、本件改修工事も被告改良区の事業としてではなく地元受益者の要望により、土地改良法九六条の二に基づく市営土地改良事業としてなされており、右工費(の五〇パーセント)の負担も地元受益者によつてなされているほか、工事終了後の引渡もこれに対してなされていること、被告改良区には本件ため池の維持管理規定が定められていないことなどの事実が認められ、これらの事実によれば、被告主張も一見理由があるかに解せられないではない。しかしながら、他方被告改良区の定款には、同改良区の目的事業として本件ため池を含む改良区内のため池の維持管理及び改良事業が明白にうたわれていること、同改良区の平素の事業は、同区内に存する四区が合同してこれを行うことはなく、各区が改良区分区又は地区改良区として各々独自に行うのが通例であり、このため改良区としての予算も右分区の予算を合算したものとなつていること等の事実も認められ、これらの事実によれば、本件ため池の管理権限及び管理責任は被告改良区に帰属し、現実の管理とこれに要する経費負担等の簡略化と便宜の見地から、黙示の合意又は慣行上事実上の管理が各区(すなわち地元受益者)に委ねられているに過ぎないものと認められ、前記各事実をもつてしても右認定を覆すに足りない(例えば、本件改修事業が市営土地改良事業としてなされていることは、本件ため池の維持管理、改良が一方では被告改良区の目的事業でもあることを何ら排斥するものではないし、維持管理規程の不存在はむしろその制定につき怠慢であるとも言えなくはない)。
そうして被告改良区は、農業生産基盤の整備及び開発を図り、もつて農業生産性の向上等に資することを目的として土地改良法の規定に基づき設立された一の公共団体であり、本件ため池は、その特定の公の目的に供される物的設備であるということができるから、右設置・管理に瑕疵があり、これによつて損害を及した場合には、国家賠償法二条一項に基づき、同被告は右損害を賠償する責に任じなければならないものというべきである。
(二) 被告市
前記認定事実によれば、本件事故当時被告市は本件ため池を現実に管理してはいなかつた事実を認めることができる。しかしながら、同被告は本件改修工事を市営土地改良事業として採択し、自ら行政主体となつて同工事を直接担当していること(本件第一期改修工事が同時に県単独土地改良事業であつたこと前記認定のとおりであるが、右事実は事業主体が被告市であることに何らの影響を及すものではない。けだし、県単独土地改良事業補助金交付規則一条の文言からすると、県単独土地改良事業とは、「県営」土地改良事業と異なり、専ら補助金交付の関係を指称するものであることが明らかだからである。)、従つて少くとも右工事期間中は、本件ため池を管理しているほか、工事に際し、事実上の管理者である地元受益者との協議により、工法、施行時期、附帯施設の設置時期等の決定、選択を行いうる立場にあり、当該営造物の瑕疵による危険を有効に防止しうる立場にあつたものであるから、右工事により営造物に瑕疵が生じ、もしくは従前からの瑕疵を放置したような場合には、工事完成後といえども右営造物の管理者として国家賠償法二条一項による責任を免れることはできないものというべきである。
2 本件ため池の瑕疵について
一般に、営造物の設置・管理に瑕疵があつたか否かの判断にあたつては、当該営造物の構造と目的たる用法のみにとどまらず、その場所的環境と現実の利用状況、その際に予測される危険性の有無等諸般の事情を総合的に考慮すべきであるところ、当事者間に争いのない事実と前認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件改修工事は、従前雑草の生繁つていた土手の堤塘の一部を別紙検証見取図第三図記載の断面構造をもつガルフシール貼りにするというものであり、漏水及びけつ壊防止の見地からは従前に比し危険性を減少させたものといいうるが、その斜面の角度は26.3度、長さは7.6メートルで一直線に池底に達しており、中途に何らの段差や転落防止の施設が全く存しなかつたこと、ガルフシールは一旦濡れると滑り易い性状を有するうえ、右斜面の構造と合いまつて、右ガルフシール部分で人が滑り、池内へ転落して死亡するなどの危険が予測されるものであること、さらに、本件ため池は、北堤において県道に接し、東方五〇〇メートルの地点には櫟本町西部団地が存在し、同所に居住する子供達が右ため池に接近することが予測され、現実に同池で釣をする子供も少くなかつたこと、また本件改修工事により、県道から東堤への出入は容易となり、工事完了部分は雑草等のしやへいがなくなつたところから従前以上に同所がかつこうの遊び場となりうる状況にあつたことが認められる。
以上のとおり、本件ため池は、本件改修工事により(工事前に全く危険がなかつたものではないが)従前に比較して工事部分への接近がより容易となり、かつ池内への転落の危険もこれに伴つて増大したものということができる。
右のような危険性を保有する施設としては、まず第一に危険の予測される部位への接近を防止するための付随的施設(柵など)の設置が要求され、第二次的には同所へ接近、侵入した場合にそなえ、滑つても池内に転落しないように防止するための施設(手すり、段差など)を設置すべきところ、前記認定事実によれば、本件ため池には第二次的施設は何らもうけられておらず、第一次的施設についても別紙検証見取図第二図ないし付近に有刺鉄線がはられ、かつ同図面⑥付近に「あぶない」と記載された赤い旗が、また同図面⑧付近に盗み釣を禁ずる旨の警告をした看板等が各設置されていた程度で、本件改修部分への接近を効果的に防止しうる施設は何ら設置されていなかつたことが認められる。よつて、本件ため池は右の点で設置・管理の瑕疵があつたものというべく、その管理者たる被告らは右瑕疵に起因する損害につき、国家賠償法二条一項に基づく賠償責任を免れないと解される。
この点に関し、右被告らは、本件ため池は現に使用されているため池として通常要求される性状を保有していたとし、漏水及びけつ壊防止の見地が重視されるべきであつてため池で盗み釣を行う子供の存在を予見し、そのような事態において生ずる危険を防止すべき施設の設置までに要求されるものではない旨主張する。しかしながら、当該ため池がその本来の使用目的にのみ終始しうるような場所的環境にある場合はともかく、付近の都市化に伴つて管理者以外の者が接近し、他の目的に利用することが現実に行なわれ、もしくは予測されるような場合には、これを備えた危険防止施設の設置は不可欠であるというべきところ、<証拠>によれば、奈良県下においてはため池への転落事故も多く報告されており、本件ため池についても場所的環境から右事態が予測されないではなかつたこと、現に前記認定事実によれば、団地内の子供が釣をして地元農業従事者に見とがめられた事実もあることなどに照らせば、本件ため池についてのみ、右危険防止施設が不要であつたものとはとうてい解せられない。
3 因果関係について
前記認定事実によれば、亡一雄がガルフシール部分に侵入し、同所(その地点は別紙検証見取図第二図X点付近と推認される。)で滑つてため池内に転落し、その結果溺死した事実が認められ、従つて前記本件ため池の瑕疵と同人の死亡との間には直接の因果関係を肯定することができる。ところで亡悦司は、亡一雄の転落を契機として、直接には自己の意思に基づいてため池へ入つたものであり、その結果助けきれずに死亡した(これ以上具体的に、同人が溺死するに至るまでの事情を認定するに足る証拠はない。)ものであるから、この点で本件ため池の瑕疵の存在と同人の死亡との間の因果関係の存否につき疑を生ずる。確かに同人の行為のみを独自にとり上げてため池の瑕疵との間の因果関係を論ずるときは否定的に解されないでもない。しかしながら、同人は弟が転落したという所与の状況下において、これを助けようとしてため池に入つたものであり、右状況を考慮に入れるときは、亡一雄の転落がなければ亡悦司の行為もなかつたであろうという条件関係ないし自然的因果関係が肯定されることは明白であり、また一般に弟が池にはまつた際、一一才の兄がこれを救出しようと池に入る行為自体も社会通念上相当な行為であつてあえて通常予測される因果の系列を逸脱したものであると評価することはできないと解される。従つて亡悦司の死亡には、弟の転落という事実及び自らの意思決定という二つの事項が介在してはいるが、なお本件ため池の瑕疵との間に相当因果関係の存在を肯定することができるものというべきである。(なお、亡悦司の行為が弟を救出することはおろか、結果的には自己の死を招いたものとなつた点は、同人の判断に客観的には誤りがあつたものであるから、後記被害者側の過失を認定するにあたり斟酌すべき一事情とするのが相当である。)
4 被害者側の過失について
被告市同改良区は、被害者らが故意に危険な施設に接近した点で過失があり、また監督責任を有する原告らが右責任を尽さなかつたことも本件事故の一因をなしている旨主張するのでこの点につき判断する。
前記認定事実と<証拠>によれば、ため池は、常にこれへの転落によつて溺死するに至る危険性を有しており、本件ため池も事故当時貯水され右危険性を有していたこと、本件ため池は従前から土手内側がえぐられており、同所から魚をつるなどの行為には転落の危険も認められたこと、さらに池内に生棲する魚は、訴外出口学の養殖にかかるものであり、この旨の表示もなされていたのであるから、同池で釣をすること自体が社会的に非難さるべき行為であつたこと、本件ため池には、前記のとおり北側県道に接した部分等に一部有刺鉄線がもうけられ、同部分からの侵入を防止していたほか、比較的目にふれやすい位置にひらがなで「きけん」と表示した旗などが立てられ、同池で遊ぶことの危険を警告していたこと、地元農業従事者の子弟は、平素から本件ため池で遊ぶことを厳格に禁止されており、これを行う者もなかつたこと、一方事故当時は夏休みにあたつていたのであるから、子供を持つ親としては平素に比べより厳重な監督義務を負つているものと解されるところ、原告らは被害者らに対し、漫然と「遠くへ遊びに行つてはいけない。」と注意を与えていたのみで「ため池へ行つてはいけない」等具体的指示を与えたことはなかつたこと、亡悦司は、事故当事小学校五年生であり、一応の是非弁別能力を有していたものと認められるところ、前記危険表示や釣りの禁止の警告を無視して自ら本件ため池に接近したほか指導的立場に立つて是非弁別能力を有しない亡一雄をあえて同行したものであること、さらにガルフシール付近で釣を行つていたのであるから、亡一雄が右斜面に近づかないよう事実上の監督を行うべきところ、右が十分に果たされなかつたため、同人が池に転落したものであること、さらに亡一雄の転落後これを助けようと自らの意思で池に入つたものであることなどの事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、本件事故には被害者側にもその原因となる過失があつたものというべきであり、右過失割合は亡一雄につき原告らの監督責任及び亡悦司の事実上の監督の懈怠をも含め五割、亡悦司につき四割と認めるのが相当である(なお、亡悦司が池に入つた行為は弟を救おうとの動機に基づくものであり、社会通念上右行為はかかる事態において兄として要求される当然の行為であると評価されるから、結果的には右判断に誤りがあつたとしても、右救出行為に出たこと自体を非難すべきではない。)
(仲江利政 広岡保 三代川俊一郎)